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2004.05.13

sportsとは

明治初期に出版された英和辞典の『和英語林集成』(ヘボン編訳)には、動詞のsportsが、「戯れる」「ふざける」「おどける」「じゃれる」などと訳されています。そして、sportsmanは「狩人」と訳されていました。さてスポーツの語源に遡ってみましょう。

 sportsとは、もともとラテン語のdeporatare(デポラターレ)あるいはdeportare(デポルターレ)という言葉から生まれた言葉で、そのラテン語は、日常生活から離れた「余暇」「余技」「レジャー」といった意味をあらわしました。それがdisport(ディスポルト)という言葉(disもportも「離脱」「移動」「出発」といった意味)を経て、「スポーツ」という言葉になったのです。ですから、日常生活の労働(仕事)から離れた「余技」や「余暇」はすべて「スポーツ」で、ヨーロッパでは、チェスやチェッカーといったゲームもスポーツととらえている国が少なくありません。「スポーツ」とは基本的に「遊び」といえるのです。
 また、サッカーやラグビーやベースボールといった現在人気のあるスポーツが盛んになったのは、欧米でも十九世紀後半からニ〇世紀にかけてのことで、それ以前は「スポーツ」といえば「釣り」「競馬」「狐狩り」といったものが中心でした。フットボールの選手やベースボールの選手が、欧米で「スポーツマン」と呼ばれるようになったのもニ〇世紀になってからのことで、それは以前は「ボール・プレイヤー」と呼ばれていたのです(「プレイ」という言葉にも「遊び」の意味がふくまれていることを忘れてはなりません)。そこで日本に「スポーツマン」という言葉が輸入されたときは、まず、「狩人」という訳語になったのでした。
 一八八三(明治十六)年、東京大学の「お雇教師」だったF・W・ストレンジは、『アウト・ドア・ゲームズ』と題した小冊子を出版し、ベースボール、フットボール、ホッケー、テニス、陸上競技(ヤード競技、棒高跳び、ハンマー投げなど)といった、様々に西洋のスポーツを紹介しました。また、一八八五(明治十八)年には、その小冊子を参考にして、二一種類のスポーツ競技を紹介した『西洋戸外遊戯法』という本が出版されました。「ゲーム」は「遊戯」と訳されたのです。ちなみに、このとき「ベースボール」は「打球鬼ごっこ」という珍妙な言葉に翻訳されています。
 「スポーツ」という言葉も、「遊猟」「鈞猟」「競馬」「遊戯」「娯楽」といったさまざまな訳語がつくられたあと、やがて、「運動」「競技」「体育」という言葉に変化していきます。「戯れ」「遊び」といった要素が消えていったのです。
 それは、文明開化ののち、欧米列強に追いつけ追い越せと、「富国強兵・殖産産業」という政策に邁進した明治という時代の空気の影響をうけた結果といえます。新しい近代日本を建設しようという時期に、スポーツを遊ぶことなどできなかったのです。また、文明開化以前の「身体文化」である武術の影響もあって、スポーツをただ遊ぶのではなく、実社会での「闘い」に有効な身体鍛錬や、さらに精神修養に利用するという考えが生まれてきました。
玉木正之『スポーツ解体新書』NHK出版2003年刊

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