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2004.05.05

クジラの歯

歯科医の友人と一緒に食事をすることになって大学を出た。彼が門のところで大学の壮大な建築物をふり返って、「虫歯でこんなものが建つなんて、異常だよな」と一言感想を述べた。私は同意も否定もしなかったが、気持はよくわかる。

 歯が同じ形をしているのを、同型歯という。われわれは異型歯である。哺乳類はふつう異型歯である。爬虫類は逆に同型歯。つまり、唇や頬ができうると、口のなかで食物をムシャムシャ噛むことができる。それにともなって、食物を切るために歯とか、つぶすための歯とか、そういう歯の形の分化が起こる。爬虫類ではまだその分化が起こっていない。爬虫類は、口のなかで食物を「咀嚼する」ことができないから、歯が分化していないのである。
 イルカの歯は、哺乳類の例外である。言ってみれば、ワニの歯に戻ってしまったのである。これは生活状態への適応かもしれないが、私はよく知らない。クジラの仲間は、はじめから同型歯かもしれないからである。こういう点になると、専門家でなければわからない。専門家でもわからないかもしれない。
 いちばん古いクジラの化石が同型歯だとすれば、そのまた祖先が異型歯だったかどうか、それを調べなければならない。そういう祖先は、おそらく陸生動物で、それならクジラの祖先であることをどう証明するか、それがさぞむずかしかろうと思う。
養老孟司『からだを読む』ちくま新書P51-52

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