20世紀で最も重要な発見
ニーチェによる「身体の発見」
ニーチェは、<肉体はひとつの大きな理性である>と主張し、身体に対する差別感をくつがえそうとした。それは、神(キリスト教)と理性(プラトニズムと近代合理主義)により支配と抑圧に対する反抗であり、「理性による人間の解放」という「近代の夢」の限界と破綻を指摘するもので、「身体の解放」すなわち「人間の解放」という思想だった。
が、「強靭な身体=強い理性=強い意志」というニーチェの考え方は、「強者の思想」として政治権力と結びつき、強い兵士の身体が理想像とされたり、また、特定の民族の優位性を主張する理論的支柱ととらえられたりした。その結果、ニーチェの思想は曲解され、人間の身体は、全体主義国家のなかで、新たな支配と抑圧に縛られることになった。
もっともニーチェが身体に着目した事実は、その後の思想家に大きな影響をおよぼし、20世紀になって、身体は「実存」する現象として見直されるようになった。身体が消滅すれば(死ねば)思索もできなくなる。それは否定できない事実であり、さらに、身体という回路を伴わないではいっさいの知覚作業も不可能という事実が注目され、そこから心身二元論によって分けられていた身体と精神を統合し、<私とは、私の身体のことである>(メルロ・ポンティ/1908~1961)という考え方にいたった。
まさに、<肉体、それは今世紀の最も重要な発見である>といえるのである。
玉木正之『スポーツとは何か』講談社現代新書1999年
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