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2004.04.19

一級の人物

非秀才から秀才たちを見たときに感ずる心配がある。それは彼らや彼女たちの、人間洞察力の貧弱さである。

 私が、歴史上の人物のうちでとくに第一級の人物を愛するのは、私が何も有名人を好むからではない。偉人英雄でなければ尊敬できないなどという、スノビズムのゆえでもない。一級の人物ともなると、一寸の虫にも五分の魂があるということを、深く理解しているからである。私は彼らに、血の通う人間を見る。人間性への、真の優しさを見る。そして、真に優しい人物に従いて行こうと考える人が多かった事実も、当然の帰結であると思う。
 そして、人間性への洞察力とは、人間性を優しく見ることと同時に、人間性を直視する能力でもある。ソマリア派遣のイタリア軍司令官として、アメリカと国連のやり方に敢然と反対し、国連総長からクビにされそうにまでなったロイ将軍は、政治上の理由でノーコメントだらけだった帰任後の記者会見でも、次の一言は言った。
 「わたしは、生来の楽観主義者である。なぜなら、人間の馬鹿さ加減にも限界があると思っているからです」
 私は、とたんにこの人に惚れた。人間とは、ソマリア人を指すと同時にアメリカ人を、また国連ずれした国連人を指しているのである。イタリア人であるわが息子は、久しぶりにイタリア人であることを誇りに思う、と言った。
塩野七生『人びとのかたち』新潮文庫P259-260

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