カラヤン
人の音楽会聴くと、舞台に駆け上がって殴り倒して、代わりに指揮したくなる岩城宏之氏
岩城 カラヤンは完全につくった美というか。自分でも「指揮者は自分を神格化させなきゃいかん」といってたけど、それをホントに実行したと思うな。パジャマに着替えたとき、あの人はどんな顔してたかと思うぐらい。
阿川 実物に会われても、カリスマ性がありましたか?
岩城 すごかったですね。カラヤンがやったことは超民主的な独裁。誰も独裁されてると気がつかないんだけど、完全にやっている。僕は二十二、三歳でN響の指揮者見習いのとき、カラヤンにいきなり「レッスンするから、好きに指揮してみろ」ってN響の前に引き出されて、カラヤンがそこに座ってるところで『エロイカ』をやったの。
阿川 ベートーベンの。なんて言われました?
岩城 「もっと力を抜いて」とか「俺はもう二、三十年やってるから、これができるんだ」とか。カラヤンはすぐ自慢するのよね(笑)。
阿川 かわいいところあるのね(笑)
岩城 一時間ぐらいレッスンされて、あとで部屋に呼ばれて。「君はなかなかよい運動神経と表現力を持っているから、オーケストラはちゃんと君の言う通りに動く。ただ、一つだけ気をつけろ。君のワーッと指揮するところから、みんな思わずギーッと汚い音を出してる」って。
阿川 ほお。
岩城 それから、「指揮で一番大事なことはキャリーすることで、ドライブすることじゃない」と。
阿川 どういう意味ですか?
岩城 僕も最初はわかんなかった。だんだんわかってきたのは、たとえば馬に乗ったとき、ドライブは手綱を引き締めてあっちに行けこっちに行けと完全に言うことを聞かせて動かす。馬はその通りに動くけど面白くない。キャリーはどこへでも好きなところへ行きなって言って、馬が人が乗っかってるのを忘れちゃって好きにしてるけど、実はそれを完全にコントロールしてる。その違いじゃないかと。
阿川佐和子のこの人に聞きたい/『週刊文春2004.3.18』P146-147
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