歌が空を飛ばない
15年前からの危惧
前略
歌が空を飛ばなくなったと申し上げたことがあります。もう十五年も前になりますか。
また、ヘッドホンで聴く歌は聴くにあらず、点滴であると危惧したこともあります。
そして近くには、ミュージックはあるが、ソングはない、です。
ずいぶん、嘆きつづけているものです。
特に、ソングはないということは言葉がないということで、これはいささか、はやりすたれ
とだけ云っていられない気持になります。
何とか、何とかと思っておりましたら、幸いなことにでしょうか。不運にもでしょうか。内
なる衝動が起こりまして、百篇の詞を書き下ろしました。
「書き下ろし歌謡曲」です。
歌謡曲における書き下ろしとは、作詞家による秩序破壊です。
作品の独断専行でもあります。
ソングと言葉のために、ドン・キホーテを演じました。
よろしくご理解の上、どうぞ、まずは読んで、よしと頷いていただけたら、幸甚です。
一九九七年七月
阿久 悠
阿久悠『書き下ろし歌謡曲』岩波新書Pi
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