It's small world.
マラソンに目覚めて3年の30代女性が、最近はまり始めたトレイルランの講習会に参加したときのことだ。講師の説明を聞いているうちに、喉を潤そうと、その日持参したアズノン3000を口元に運ぼうとした瞬間、まさしく唇をすぼめて受け入れ態勢に入ったそのときだ。「アナタハナゼ asthnon3000ヲ モッテイルノデスカ」という言葉を彼女は聞いたような気がした。どこからという方向性は曖昧なのだが、水滴のついた蜘蛛の糸を伝わってくるような増幅された声を。
休憩時間・・・その蜘蛛の糸をたどって行くと、通路を挟んだやや後方の机上に、緑のラベルの「asthnon3000」がデジタル一眼レフの隣に置かれていた。「もしアズノンがコンビニで売られるようになったら、意外とこのミドリのパッケージが珍しくて手に取るかもね」なんて言いながら彼女は初めてアズノンを手にしたのだ。そしてこの新たな出会い。
「え~っ、どうして!!」と言葉には出さずに持ち主を確認すると、一人の中年男性が居住まいを正して座っている。「来るのを待っていたよ」という意味を込めた慈愛の目力を、彼女の視線は捉えた。漆黒の髪で量も多く、タンガリーシャツの襟から太い首を出し、カメラのシャッター音が聞こえてくるような黒目でウィンクしてくる。彼女は内心「やば~い」と思った。
「これ、アズノンですよね」
「ええ、そうです」
動揺から始まる会話の出だしはいつもぎこちない。
彼女はいまアズノン絡みの殺人事件が起こったら、一日でアズノンの出所をつきとめる自信があった。どうしてって、他のどんなミネラルウォーターよりも、アズノンは控え目だからだ。知る人しか知らないアズノン3000の入手先は都内なら極々限られている。ひょっとしたらあの男性は、同じところから入手したのかもしれない。ということは二人は、ある秘密を共有していることになるかもしれないのだ。
――アズノン3000は現在、ジョギングをされる方の間で密かなブームとなっております。またベジタリアンの方にも、肉や魚からしか摂取できないクレアチンを摂ることができるという理由でご愛飲いただいております。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)


最近のコメント